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読書に関するインタビュー

3 足立 泰二(あだち たいじ)さん : 読書は「知的な遊び」

取材日  令和元年7月12日(金)
聞き手 生涯学習課 佐藤 中野
文責  生涯学習課

足立 泰二 氏

足立 泰二さん プロフィール

 宮崎大学・大阪府立大学名誉教授。NPO法人みやざき自然塾塾長。NPO法人大阪公立大学共同出版会(OMUP)理事長。
大学教授としてドイツをはじめ、世界30カ国以上渡航し、農学研究において多くの実績を残すとともに、多くの農学博士等を輩出。現在はこれまでの自分の蔵書をもとに「まちライブラリー@みやざき自然塾」を開設。一般に開放するとともに、月に2回ほど英語音読会や音楽鑑賞など、イベントを実施している。また、ほぼ2カ月に1回の頻度で宮崎県立図書館において、「みやざき自然塾『コロキウム』(市民講座)」を開催している。


「まちライブラリー」について聞かせてください。

 街中の読書空間とでも言える場所で、私設のミニミニ図書館という意味です。本を持ち寄ったり、オーナーの蔵書を公開したり様々です。日本国内では、大阪が始まりで、今や全国600ヶ所以上あり、特別何も縛りはなく、各種イベントを立ち上げて、コミュニティ仲間で楽しんでいる場所です。ちなみに、「まちライブラリー@みやざき自然塾」は、国内595番目のチャレンジャーです。登録料その他、いっさい無用です。ひたすら知的好奇心を満たす場所です。


子どもの頃から本をよく本を読んでいたのですか。

 いえいえ、小学校入学は昭和23年、モノのない時代でした。もちろん本もない時代でしたので、文化的なものには貪欲でしたが、小学校の横の本屋兼文房具店で、当時の月刊誌「小学〇年生」などを立ち読みしていたぐらいです。放課後には、代用教員の先生からバイオリンを習っており、その先生の某私立大学通信教育サマースクーリングのおみやげに頂いた「プルターク英雄伝」は今でも強く印象に残っています。


本をよく読むようになったのはいつ頃ですか。

 中学生になって英語を学習し始めたこともあり、言語と音楽に興味をもつようになりました。
 特段の「読書好き」ということではありませんでしたが、中学では学芸会の「夕鶴」「杜子春」「父帰る」などの戯曲に熱中しました。
 高校に通うようになると、小学校廃校跡に県立図書館境港市分館が開設され、通学途中に立ち寄っては、「暗夜行路」や「細雪(ささめゆき)」などの近代日本文学全集を借り出して読みました。当時は、定期試験前になると無性に本が読みたくなって、むさぼり読んだのを覚えています。


他にも学生時代に影響を受けたことはありますか。

 高校時代に教頭先生が各学年数名ずつを呼び集め、土曜の午後の静かな図書室で大学受験とは関係ない、輪読セミナーをしてくれました。当時の米文学作家スタインベックの"The Red Pony"を音読したり、英国詩人ワーズワースの「自然詩」を朗々と詠唱してくださったりしたことが印象として残っています。そういったことの影響で、今でも音読会を行っています。「言語はリズムとメドレー」、声に出して読むことの重要性を学びました。


今の時代の若者の読書について感じることはありますか。

 今は映像が中心ですべてが受動的、積極的に読書する習慣が薄れています。若いときから読書、それも音読する習慣を身に付けてほしいと思います。人には向き、不向きがあるのは当然、読書が全てではありませんが、知的好奇心を鼓舞する上では読書は必要です。そのためにも図書館には若者を呼び込むための工夫が必要だと思います。読書も音楽と同じ、「知的な遊び」、思考することを楽しんでもらいたいと思います。


読書をする際に心がけていることはありますか。

足立 泰二 氏

 若い頃は全方位・他分野の3、4冊の本を同時進行的に読んでいました。ただ、たくさんの本を読んでいると記憶が不確かなものになるため、できるだけ手書きできるノートを片手において、メモをとることにしています。メモには日付などを残し、読み返すこともあります。それと、寝っ転がって読むことはしないことにしています。



その読書の方法を身に付けたきっかけは何ですか。

 「モモ」などの作品で有名なミヒャエル・エンデから学びました。忘れてもいいんです。読み返しながら、書いたものを捨てたって良いのです。反復になりますが「人間は忘れる生き物」の体験を実感しています。


海外への渡航経験が豊富ですが、外国の読書事情はどうですか。

 ドイツ、ニュージーランド、オーストラリア、ロシア、ポーランド、イギリス、カナダ、アメリカの他、アジア諸国を訪れる度に、公設図書館巡りを楽しんできました。どの国でも、老若男女が小脇に5,6冊の本を抱えて、家路に急ぐ姿があります。2、3の実例以外は家庭での読書事情は知りませんが、読書は非日常の世界を楽しむことでもあります。人の心を豊かに、安らぎをもたらしてもくれます。ベストセラー本に興味を示すのは日本ぐらいではないのかな。
 日本では漫画・アニメ本7割、一般単行本3割に対し、外国では詩集・一般本7割、漫画・雑誌3割との烙印を押されて久しい。「漫画・アニメ文化」に釘を刺すつもりはないが、「行間を読む」楽しみは読書にしかないのではないかと思う昨今です。


おすすめの本を教えてください。

 ① 塩野七生の本を読んでもらいたい。
     歴史的なものをよく理解してもらわないといけない。とくに政治、行政に携わる人々に。


 ② 「柑橘類と文明」  ヘレナ・アントレー/著、三木直子/訳 (築地書館)

足立 泰二 氏

 日本の知の巨人南方熊楠とも交友のあった田中長三郎、蜜柑研究に情熱をかけた哲人の記載もあります。 食資源が文明・文化と関わることの面白さを実感します。



 ③ 「ロマンスという言語」 小林標/著(大阪公立大学共同出版会刊)

「柑橘類と文明」ヘレナ・アントレー 著、三木直子 訳

 これぞまさに稀有な言語学者が、現地生活を語りながら、ラテン語から派生、いや歴史的背景のもとに展開した「ロマンスという言語群」を説いている。今に生きる文化遺産として、英語一辺倒で単一化・統一化を図ろうとする世界の風潮に対して大いなる挑戦だと思い、一読をお薦めしたい。



 ④ 「未来の余白から ~希望のことば 明日への言葉~」 最上俊樹/著(婦人之友社)

「未来の余白から ~希望のことば 明日への言葉~」 最上俊樹 著

 スイス在住の国際的法学者が難しい言葉ではなく、説得力ある表現力で著したエッセイとして、ある女性雑誌に連載された読み物です。その感性は若々しい。昨今の政治家の反知性的言動をソフトタッチながら揶揄している。現代日本の知性として誇らしく思う。



県立図書館は今でもよく利用されますか。

 はい、よく利用していますよ。特に地域の自然に関する資料を探すのに活用しています。
 宮崎に滞在しているときは県立図書館、大阪にいるときは府立中央図書館に通っています。県立図書館には、ちょっと人文科学分野の物足りなさも感じますが、資料は揃っていると思います。
 それと距離の離れている大学図書館とのネット連携の必要性を感じます。大阪では府と市の連携もさることながら、府立中央図書館には、個室も書庫からの参考文献運びまで館員さんが手伝ってくれるんですよ。まさに、物書きの右腕ですよね。


宮崎のみなさんにメッセージをお願いします。

 大学での教え子は内外で300人にも及びます。自分の今のモチベーションは彼らから常に「親父の背中」を見られている心境です。生涯絶えることない「知的好奇心」=「学ぶ心」だと思っています。とくに昨近の日・米、とくに政治経済分野では欧州などに比べると、「経済至上主義」、「儲かってなんぼの世界」があまりにも横行しています。日本の歴史・文化背景の厚さを誇るべきと思います。宮崎の未来を信じています。


ダウンロードファイル
足立 泰二(あだち たいじ)さん : 読書は「知的な遊び」 R01.07.12  
(PDFファイル 383KB)
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