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地域住民の参画による活動拠点をつくる(地域の教育力を高めるために)

1 住民参画による活動拠点づくりの意義

(1) 子どもの生活の現状から

近年、核家族化や少子化など家族の構成が変わるとともに、都市化・過疎化が同時に進行し、地域社会における人と人のつながりも一段と希薄化しつつある。
このような中、人々は子どもたちに関し、いじめ、不登校、青少年の犯罪の凶悪化・低年齢化、あるいは幼い子どもを狙った犯罪等、様々な問題に直面している。

また、最近の子どもたちの生活の特徴として、学校から家に帰っても近くに一緒に遊ぶ子どもが少なく、屋内でゲームやテレビを見て過ごしている子どもが多い。(資料3・4)そのため、人との交流や実体験が乏しく、自分の考えを正しく相手に伝えることが苦手で、「キレやすい」子どもが増えていると言われている。

また、親の中には、育児ノイローゼの問題が顕在化し、孤独な子育てを意味する「孤育て」という言葉も登場するほど、子どもを育てる環境は厳しくなりつつある。

これらの状況から、子育てを社会で支援する必要性が生じており、特に地域住民の参画により、子どもをみんなで育てるコミュニティづくりを進めることは急務である。例えば、地域において、学年の異なる子どもたちと自由に遊んだり、地域の人たちと交流ができる場を設けたりするなど、放課後や休日、長期休業中における体験活動の充実を図ることが大切である。これらの経験を通し、子どもたちは社会のルールや自分の考えを伝える力を自然と身に付けていくことになる。

(2) 住民参画による活動拠点づくりの視点から

子どもの身近な生活の場に活動拠点をつくることは、子どもの安全を確保し、地域の人々との交流の中で豊かな体験をするために有効な方策である。(資料5)

そのような活動拠点は、それぞれの地域において様々な施設が考えられるが、ここでは、全ての市町村の身近な生活の場に設置されている学校と公民館について、活動拠点としての整備の方向を提言することとした。その方向としては、子どもにとって、

  • 心の拠り所・居場所となり、自ら進んで参加する場であること
  • 豊かな体験をする場であること
  • 同世代の子ども同士あるいは世代間の交流を行い、生き方を学ぶ場であること
  • 地域住民とのふれあいや学び合いを通して、伝統文化やよりよい生活の方法を知るとともに、豊かな感性を育て、学ぶ意欲や創造力の形成につながる場であること
  • 安全・安心が確保される場であること

などが期待される。

また、子どもたちが興味・関心をもって自ら進んで参加するためには、子どもを含めて、地域住民が知恵を出し合い、その地域ならではの企画を作り出すことが求められ、さらには、地域住民の参画による自主的な運営が求められる。このことにより、「地域の子どもは地域で育てる」という住民意識がかん養され、多くの地域住民の参画や住民相互の連帯、ネットワーク化が図られ、地域の教育力の向上につながることが期待される。

2 提言

(1) 住民参画による活動拠点づくりのための具体的な方策

ア 子どもの身近な生活の場に活動拠点をつくる

放課後に子どもたちが安全で安心して育まれるように、平成19年度から文部科学省の「放課後子ども教室推進事業」がスタートしている。これは、放課後や週末等に子どもたちの適切な遊びや生活の場を確保したり、小学校の余裕教室等を活用して、地域住民の参画を得ながら、学習やスポーツ・文化活動、地域住民の交流活動などの取組をするものである。他にも、各地域において住民の参画のもとに、様々な子どもたちの体験活動に取り組まれている。このような取組には、子どもたちや地域住民にとって身近な拠点を設けることが必要である。

子ども同士、あるいは子どもと大人がつながる日常的な交流の場として、公民館、小・中学校の余裕教室、廃校となった校舎等を活動拠点として活用することで、継続的かつ計画的な体験活動等の推進を図ることができる。

その際、シニアパワーを活用し、子どもたちにとって、いつでも誰かが待っていてくれる安全で安心して過ごせる「第二の我が家」として位置付けることも考えられる。

(ア) 公民館
公民館、特に地区公民館や自治公民館を通常活用していない時に、学校の放課後や休日の活動拠点として、住民参画により、子どもにとって魅力のある体験活動等の拠点とする。
(イ) 小・中学校
小・中学校の余裕教室や廃校となった校舎等を平日及び休日の活動の場として開放する。その際、管理者である各市町村教育委員会と開放日時を含め協議をした上で、地域住民による自立的な運営組織を設ける必要がある。
土・日においては、教室のほか、体育館・グラウンド、図書室、工作室等を可能な限り幅広く開放し、地域住民に開放し、地域住民の学習・文化・スポーツ活動の場としての活用や世代間交流を含めた子どもの体験活動の場として活用を図ることが期待される。
また、このような活動時や活動場所への行き帰りにおける安全・安心に十分配慮することが求められる。このため、安全対策についての方針を明確にし、運営スタッフ、ボランティア、保護者の間で情報を共有するとともに、子ども自身が安全対策について正しい認識をもつように指導すること、保護者やボランティアによる見守り活動などの体制を整えることが必要である。

イ 子どもの体験活動や地域の大人とのふれあい活動等を推進する

子どもの健やかな成長のためには、発達段階に応じ、放課後及び休日、長期休業中等において、様々な体験と地域の大人との交流の機会を設けることが必要である。特に高齢者との交流を推進することは、郷土の伝統文化の継承や高齢者自身の生きがいづくりなどにもつながる。

活動内容については、例えば地域の伝統文化や遊びの継承、自然体験活動などの幅広い分野で、地域の特色を生かした活動を推進する。

(ア) 休日及び長期休業を利用した活動、宿泊を伴った活動
  • 休日や長期休業中において、子どもや親子を対象とした事業を推進することは、子どもの豊かな体験と個性の伸長を図る上で有意義である。放課後の活動に比べると、より時間をかけて、継続的・発展的な活動を行うことができるという利点もある。
  • 県内において公民館等を拠点として実施されることもある「通学合宿」の取組は子どもたちが親元を離れ、共同生活を通して、炊事、洗濯、掃除等の経験を積んだり世代間交流を進めたりする絶好の機会となっている。今後、効果等を行政関係者や地域へ啓発することで、県内各地に普及させることが求められる。
(イ) 放課後における活動
  • 地域社会の中で、放課後や週末等に行われている「放課後子ども教室」等の取組について、今後さらに地域住民が中心となり広めることは、子どもの安全・安心の確保や健全育成に有効である。

ウ 地域住民や子どもの参画による運営を推進する

子どもたちの地域活動においては、地域住民や子どもたちが参画できるような運営をすることが求められる。住民が様々な事業の企画段階から主体的な運営を目指すことは、自治意識を高めることにもつながると考える。これにより、住民や子どもたちの創意を生かした活動プログラムの充実が図られるとともに、子どもの参加意欲を高め、主体的な学習活動を促進することにつながる。

(ア) 住民の創意を生かしたプログラムの充実
活動プログラムの立案に当たっては、複数の活動メニューから選択できるプログラムを取り入れるなどの工夫や、子どもが企画し興味・関心をもって自発的に参加するための工夫が求められる。
活動プログラムの運営においては、子どもがあいさつや清掃を進んで行うなど、明るく伸び伸びと活動する中で規律を身に付けられるよう指導・援助する。
(イ) 公民館における住民参画による運営
自治公民館では、地域住民の連帯感を深めるため運動会や文化祭など様々な活動が行われている。子どもたちがこの活動に参加することにより、地域のよさを実感するとともに発達段階に応じた多くの体験を行うことができる。今後、このような機会を増やしていくことは重要なことであり、地域住民の参画をさらに進めるとともに、子どもの意見や創意が反映できるような機会や場の設定に心がける必要がある。
地区公民館においては、地域住民や子どもの参画による企画・運営会議を設けることなどにより、子どもを対象とする事業の充実を図ることが期待される。
(ウ) 小・中学校に拠点を置いた地域住民の参画による活動の推進
小・中学校を活動拠点とする際には、地域住民が一体となって子どもたちを見守るという意識を啓発しながら、保護者、地域住民、そして教職員が子どもたちと一緒になって活動をしていくことが求められる。
その際、地域住民による責任と意欲をもった自立的な運営組織を設ける必要がある。
また、将来的には、学校内に生涯学習支援機能をもつ拠点を設け、それに住民参画の運営体制を整備することが期待される。その際、組織に生涯学習支援機能と学校支援機能の両面をもたせるならば、ボランティアが子どもたちの放課後や休日の活動を支援する役割と併せて、学校教育を支援する役割も果たすことが可能となる。

エ 地域及び学校・家庭をつなぐ地域共育コーディネーターやボランティアを養成し、「地域共育ネットワーク」の普及を図る

地域及び学校・家庭は、子どもたちの豊かな心や基本的な生活習慣を育む大事な場である。本県においては、平成18年度からの3年間、県内7つのモデル市町村・地区において、「地域で子どもを育てる『地域教育システム創造』実践モデル事業」に取り組んでいる。これは、子どもを育てるための地域における教育機能のシステム化

  • ネットワーク化を図り、シニアパワーやコミュニティーパワーを活用した地域における特色ある活動を推進するものである。

この事業の推進にあたり、地域住民の参画による活動を促進するためには、その組織、 活動を支えるボランティア、指導に当たるコーディネーター等の人材の確保と養成がきわ めて重要である。

今後、この事業の成果を踏まえ、子どもたちを取り巻く地域の様々な課題について、住民が一体となってともに課題解決にあたるために、「地域共育ネットワーク」として、さらに充実し県下に広げていく必要がある。

(ア) 地域共育コーディネーターを養成する
地域の活性化のためには、地域及び学校・家庭をつなぐためのコーディネーター(「地域共育コーディネーター」)の確保と養成が求められる。このため、県・市町村教育委員会が連携して「地域共育コーディネーター」の養成を行うことが必要である。
なお、これまでにも、学校を支援する多くのボランティアがおり、それらの経験者の中から地域共育コーディネーターを養成することも考えられる。
その際、コーディネーターの役割は、ボランティア相互及び地域の関係団体等とのネットワークを築くことであることを明確にし、地域住民や地域の様々な組織に対してコーディネーターの存在や役割について周知徹底を図る。
(イ) ボランティアに関する「人材バンク」を整備する
教育委員会、学校、公民館など、関係機関が連携した組織において、ボランティア募集活動を推進するとともに、ボランティアに関する「人材バンク」(各小・中学校や公民館単位が望ましい。)等を整備したり、相互に情報交換を行うなどの取組を推進する。なお、ボランティアの募集に当たっては、いわゆる「団塊の世代」の大量退職を受けて、シニア世代に参加を呼びかけることも重要である。
(ウ) 地域ごとに関係者の参画による「地域共育ネットワーク」組織を形成する
それぞれの地域には、学校、自治会、社会教育関係団体、その他のボランティア団体等、あるいは社会貢献を志向する企業など様々な既存の集団・組織がある。これらの集団・組織を「どのような子どもたちを育てるか」という共通の子育て目標の下に、有機的にネットワーキングした「地域共育ネットワーク」組織を形成し活動を展開すれば、より一体化した取組となる。
この「地域共育ネットワーク」組織には、これから保護者になる若い世代や乳幼児の親を含めた保護者も積極的に参加する。
このネットワークが関係者の対等な連携・協働の場として、また率直な情報交換や意見交換の場として、さらに、共通の目標の下に共同で取り組む場として機能すれば、地域の教育力を高めるとともに、住民参画による活動拠点づくりを進める上でも、大きな力となる。

(2) 住民参画による活動拠点づくりを進めるために

社会の変化の中で、子どもが育つ環境は大きく変化している。孤立した状況の中で多くの子育て世代は悩み、また、寂しさや行き場のなさを感じながら日々を過ごしている子どももいる。

今こそ老若男女が手をとりあい、地域でともに子どもたちを育てる地域づくりを進める必要がある。

今後、住民参画による活動拠点づくりを進めるためには、各市町村において独自の取組を進める必要がある。その際、それらの取組を推進・支援するために、地域レベルで「地域共育ネットワーク」の形成を図ることを期待する。また、県教育委員会においても、全県的に取組を推進・支援するための事業を実施することを期待する。

ア 県教育委員会及び関連行政部局の取組に期待すること

県教育委員会には、関連部局と連携を図りつつ、住民参画による活動拠点づくりと、地域共育ネットワークの形成を全県的に支援することを期待する。

例えば、地域共育フォーラムの開催、地域共育コーディネーター養成、実践事例集の作成等が考えられる。

イ 市町村教育委員会及び関連行政部局の取組に期待すること

市町村教育委員会には、関連部局と連携を図りつつ、各々の地域の特性・独自性を尊重しながら、地区レベル(中学校区等)における「地域共育ネットワーク」の形成を図るとともに、学校、公民館等における住民参画による活動拠点づくりを推進することを期待する。

このため、「地域共育コーディネーター」の支援などの体制整備を図ることも重要と考える。

ウ 小・中学校に期待すること

学校は、例えば、余裕教室等の施設を開放するとともに、住民参画による活動を推進する拠点になり、「地域共育ネットワーク」の形成に参画することを期待する。その際、学校中心でなく、学校と地域が協働して共通の課題に取り組み、「学校教育への地域の支援」と「地域の教育力を高めるための学校の支援」という双方向の目的を目指すことを期待する。

エ 公民館に期待すること

各公民館においては、中央公民館を中心とする公民館ネットワークを形成して、地区公民館や自治公民館における子どもや家族の体験活動等を更に推進するとともに、地域住民や子どもたちが参画する運営を推進することを期待する。

オ 社会教育関係団体、NPOに期待すること

地域の自治会、子ども会、PTA、地域婦人連絡協議会、青年団、青少年育成連絡協議会、高齢者クラブ、地区社会福祉連絡協議会、子育て支援NPO、福祉・環境保護のボランティア団体等の諸団体には、既存の枠組みを越えて、「地域共育ネットワーク」に積極的に参画するとともに、相互に連携・協力を図りながら、独自の役割を果たすことを期待する。

カ 住民、保護者に期待すること

地域住民には、子どもの体験活動、子育て支援活動等にボランティアとして参加したり、活動拠点づくりに積極的に参画することを期待する。特にシニア世代の人々には、豊かな経験や技能等を子どもたちに伝える活動に参加することを期待する。

また、これまで、子育てといえば母親中心となりがちであったが、父親も子育てを積極的に担うという立場から、例えば、家事はもちろん、地域の行事や休日などに行う活動には、子どもとともに参加することを期待する。さらに、若者も子どものお兄さんお姉さん役として体験活動等のボランティア活動に加わることを期待する。

キ 企業に期待すること

近年、企業のフィランソロピー(社会貢献活動)が求められるようになってきた。企業が地域社会の一員として積極的に参画し、従業員による地域・学校における青少年指導活動やボランティア活動及び家庭における親子ふれあい活動等を奨励し、地域や学校の派遣要請に積極的に協力するとともに、ボランティア休暇制度の導入などの条件整備を図ることを期待する。また、従業員が行う青少年指導やボランティア活動等の実績を積極的に評価することを期待する。

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