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3.学習方法

2.コミュニケーション能力を高める学習

人は、毎日の生活の中で人権尊重に関する知識・価値観・技能を身に付けていきます。このような知識・価値観・技能は、本来、家族や友達、地域の人々との日常的な交わりの中で、自然に身に付けていくものです。しかし、家庭でも地域社会でも人間関係は希薄化し、生活における様々な体験を通して人間関係の基本的な知識・価値観・技能を学ぶ機会は減少しています。その結果、人との関わり方を知らなかったり、関わり方は知っていても実践する能力や態度が身に付いていなかったりする人が増えています。

そこで、社会教育の中でも、適切な人間関係づくりについての基本的な知識を教えたり、人間関係に関する一定のルールやマナーを身に付けさせたりする必要があります。また、人間関係から生ずる問題を解決する方法や、伝え合い分かり合うためのコミュニケーション能力などを、参加体験型学習やスキル学習を通して身に付けるようにすることが求められます。

コミュニケーション能力
コミュニケーション能力とは、考えや気持ちを適切かつ豊かに表現し、また、的確に理解することができるような力です。自分の気持ちを伝えられることが、人権や差別の問題について理解を深めたり解決したりする基盤となります。そして、人の思いを分かろうとすることが、他者の権利に関心をもつ出発点になるのです。こうしたコミュニケーション能力は、異なる文化や考え方をもった人々と交流する上でも大切です。

(1).自分の思いや考えを伝える力を身に付ける学習

自己表現には、次の3つのパターンがあります。

  • 攻撃的な自己表現
    相手の気持ちを考えず、自分の気持ちを優先させ、自分の言いたいことだけを言う。
  • 非主張的な自己表現
    相手に対して自分の言いたいことを言えない。又は、言わない。
  • アサーティブネス(非攻撃的な自己表現)
    相手の気持ちを大切にしながら、自分の言いたいことを主張する。

人には、自分の気持ちや考え、意見、希望を率直に表現することができない場合があります。例えば、「相手を怒らせてしまわないか。」とか「どう答えてよいか分からない。」など、言いたいことを言えないという場合です。また、言った後に「どうも自分の言い方は相手を怒らせてしまったようだ。」と感じることがあります。どちらも相手との関係も対等であるとは言えず、自分の気持ちがうまく伝えられていません。

そこで、互いの関係を損なわずに、自分の思いや考えを伝えるための自己表現の方法として、アサーティブネスの考え方があります。

アサーティブネスとは、自他を共に大切にした自己表現のことで、自分の思いや考えを、率直に正直にしかも適切な表現で相手の人格を尊重しながら伝えることです。

ア. アサーティブネスの方法

アサーティブネスの一つの方法として、「I(アイ)(わたし)メッセージ」があります。対立が起こった時に、「あなたが ○○だから」「あなたって人はまったく○○なのだから」といったように「You(ユウ)(あなた)」を主語にして話し、結果的に相手を非難していることが多くあります。言われた方は、自分が非難されていると受け止め、感情的になり、譲り合おうという姿勢がなくくなり、衝突が起きてしまうことがあります。

「I(アイ)」を主語にして話すと、相手に受け止めてもらいやすくなります。「I(アイ)メッセージ」は、相手の反感を買うことなく、スムーズに自分の思いを伝えることができるコミュニケーションの方法です。

イ. アサーティブ・トレーニング

アサーティブ・トレーニングとは、実践的なロールプレイングを繰り返しながら、自分の要求と感情を適切に表現する方法を身に付けていく練習です。

アサーティブネスを日常から心がけたり、アサーティブ・トレーニングを積み重ねたりする中で、確かな技能が身に付き、より望ましい人間関係を築く力が培われます。

実践例

1. 主題 「アサーティブネスを身に付けよう」
2. ねらい 相手も自分も大切にするコミュニケーションの在り方、相手を傷つけずに納得してもらえる自己主張の在り方(コミュニケーションスキル)と人間関係改善のためのコミュニケーション能力を身に付ける。
3. 時間 1時間
4. 展開例
過程 学習活動 学習の意図・留意点 方法・資料
導入 1. アイスブレーキングを行う。
・部屋の四隅
○ 詳細は、22ページを参照する。  
展開 2. アサーティブ・トレーニングについて知る。 ○ 日常生活の中で嫌な思いをしたり、相手に嫌な思いをさせたりした体験などを話し合わせる。
○ 自己表現の3つのスタイルを知り、自分の言い方を確認させる。
ワークシート
3. アサーティブな言い方や態度について考える。
ア.  個人で
イ.  グループで
○ 話し合いの観点
・  相手の気持ちや立場に配慮しているか。
・  自分の気持ちを正直に伝えているか。
・  言われたことに相手が素直に納得できるか。
4. アサーティブなコミュニケーションのポイントについて話し合う。
ア.  よいと思われる言い方
イ.  お互いの気付き・感想など
ウ.  アサーティブネスになるためのポイント
○ 話し合いの観点
・  人権感覚を大切にすること
・  自分を大切に(素直に、正直に、時には「NO」という勇気を)
・  相手を大切に(自分に置き換えて、歩み寄り)
まとめ 5. 学習活動を振り返り、行動への意欲をもつ。 ○ まとめのポイント
・  日ごろのコミュニケーションにおいて、アサーティブネスを心がけることが大切である。
 

ワークシート(アサーティブな自己主張を)

1. アサーティブ・トレーニングとは
アメリカ合衆国で、60年代の人種差別撤廃運動や性差別撤廃運動などの公民権運動の時期に開発された自己主張のトレーニング方法です。そして、自己表現に自信をもつことを通して、自分を大切にする態度を育てる手法へと発展してきました。
相手を尊重しながら、その場の状況にあった適切な方法で、自分の気持ちや意見などを正直に伝えるためのトレーニングです。
自己理解 → 他者理解(能動的な聞き方) → 日常生活でのスキルを身に付ける
2. 自己表現の3つのスタイル
  • 攻撃的なスタイル
    おまえは○○○だ。(他者否定→偏見)
  • アサーティブなスタイル
    私は、○○○と思います。(自他尊重)
  • 受け身的スタイル
    うーん、まあいいか。(自己犠牲)
3. 事例で考えてみましょう。
休日に、映画を一緒に見ることを約束していたAさんとBさん。ところが、Bさんは寝過ごして、1時間も遅刻してしまいました。もう、映画は始まっています。

さて、Aさんは・・・・・

  • 寝過ごした?何時間待たせたら気が済むんだ。おまえはいつもそうだ。いい加減にしろ。
  • 寝過ごした?私ずいぶん心配したよ。約束の時間を間違えたのかとか、あなたが事故にあったのではないかとか。連絡してほしかったな。
  • 寝過ごした?まあ、仕方ないね。(心の中は怒り)

言われたBさんはどんな気持ちで、どう答えるでしょう?

  • ・・・
  • ・・・
  • ・・・
4. アサーティブな言い方を考えてみましょう。
  • バスを待つ順番を待って並んでいました。すると、Aさんが割り込んできました。
  • 外出しようとしていたら、Bさんが車を借りに来ました。
  • 隣に住んでいるCさんが、黙って庭のホースを使いました。
  • DさんがEさんの悪口を言って、いじわるします。

(2)聞く力を高めるための学習

「聞く」ことで大事にしたいことは、「自分のための情報として聞く。」「批判的な気持ちで聞く。」など自分中心的な聞き方をするのではなく、「相手の言うことを理解しようとして聞く。」ことです。相手を理解するように聞くことを心がけることは、コミュニケーションの活性化を図る上でとても重要なことです。意識的に集中して相手の話に耳を傾けて聞く時には、「聞く」ではなく「聴く」という文字を使用する場合があります。

傾聴
参加体験型学習の中に、「傾聴」という、共感的に聞く姿勢を高めるトレーニングがあります。傾聴では、例えば二人一組で、一方は話す側、一方は聞く側になって、1分間ずつそれぞれが「話す」「聞く」という行為に集中するようにします。そして、役割を交代してそれを繰り返します。
ファシリテーターは、聞く側が、「心を傾ける」「体全体で共感を表しながら」「質問は一切しない」という3つのルールを守りながら聞くことに集中するように意識付けを行うことが大切です。聞いているつもりでも、実際には相手に心が集中していない、途中で質問したくなる自分に気付くなど、自分自身が普段どのような聞き方をしているか振り返ることにもつながります。
聞く力も技能の一つですから、身に付けるためには繰り返しトレーニングをすることが必要です
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